2010年4月19日月曜日

ピンドラーマ2010年3月号⑦<新しいレアル紙幣><ブラジルの道路交通、夜間の信号無視にはご注意><クラッキ列伝・ジェルソン><リベルタドーレス杯開幕>

<摩訶不思議なブラジル経済>
新しいレアル紙幣


ブラジルの株式市場は停滞気味である。年始の70 千ポイントから2 月25 日現在64 千ポイントに下がっている。為替相場もレアルが1 ドル1.723レアルから1.84 レアルまで値下がりしている。昨年後半の過熱したブラジル株式市場に若干調整が入った形だ。流れが変わった原因はギリシャの財政危機がきっかけで、世界的にエマージングマーケットへの資金流入が止まった形である。ただ株価は2008 年の5 月に記録した73 千ポイントの最高値付近でもあり、悲観的になる水準では全くない。さて、最近ブラジル中銀が新しい紙幣を発表した。もしかしたら既に新しい紙幣を手にした人もいるかも知れないが、レアルが導入されて15 年以上が経過したが新たな紙幣の登場である。
今回新たに導入される紙幣は2、5、10、20、50、100 レアル札である。デザインは基本的には従来通りで表に例の肖像でその裏にブラジル固有の動物が描かれることになる。基本的には肖像画は従来通りであるが、動物の絵柄にについては今般新たな絵柄になり、加えて従来は紙幣に対して縦書きであったものが横書きに変更になる。実は新紙幣の構想は2003 年からCMB(Casa da Moeda do Brasil)で開始されたものであり、その主たる目的は通貨の信頼性を高めることで、つまり偽札を作り難くしている。この新たな紙幣のために4 億レアルの投資をしている。
ユニークな変更点としては各紙幣の大きさが異なる点である。従来は縦65 ミリ・横140 ミリ縦と全て同じ規格であったが、100 レアル・50 レアルは縦70 ミリ、横が各々156 ミリ・149 ミリと若干違っており、残りの20・10・5・2 レアル札は縦は65 ミリと従来と同じであるが、金額が小さくなるについれ横の長さが短くなっている。100 レアル札は従来より若干であるが大きくなるので、もしかしたら財布の買い替えが必要になるかも知れない。この変更の理由は紙幣の額面金額の違いを分かりやすくするためで、例えば目の不自由な人などへの配慮である。
さて、気がついている人もいると思うが、1 レアル札はどうなるかというと現状通りで特に変更はない。その理由は簡単に言えばコストに見合わないからである。今回の新紙幣の導入には最新の印刷機械や偽造防止の工夫が様々されており、それらのコストを換算すると従来に比べて紙幣印刷コストは28%も増加するらしい。従って、偽造される恐れが低く、紙幣の磨耗の激しい1 レアル札にコストをかけてまで新調する必要はないとの判断であろう。また、1 レアルは今後はコインが主流になっていくとの思惑もあると思われる。
この新しい紙幣の流通は先ずは100 レアル・50 レアル札が先行され2011 年には20 レアル・10 レアルの流通が開始され2 年以内に全ての種類の通貨が流通を開始することになる。これも、前述のコストに関わる理由で先ず最重要な100 レアル・50 レアル札から紙幣の交換を開始することになっている。尚、現在の紙幣は引き続き利用可能であるので特に心配は無用である。
さて、この新しい通貨が上手く流通するだろうか。新しい通貨の導入にはコストがかかり、一番コストを強いられるのは銀行で、新たなATM を導入したり新しい紙幣に合わせて機械の導入が必要になる。日本で2 千円札が殆ど流通していないのは銀行等のATM にその一因があった。一方で新紙幣の導入はATM 等への投資が必要となりそれが経済をある程度活性化するとの見方もあるがどうなることであろうか。早く新しい紙幣を手にしてみたいものである。


筆者 加山 雄二郎(かやま ゆうじろう)
大学研究員。


<ブラジル社会レポート>
ブラジルの道路交通 夜間の信号無視にはご注意


お前が何を大上段から、と笑われそうなタイトルですが、ブラジルは老若男女を問わず?よくこれで事故が起きないな…と思うことって多くないですか?我が家の近所では、丁字路の曲がった先がまた丁字路で、一つ目を曲がってアクセルを踏めば何とか次の丁字路も青信号で突破できるという微妙な信号設定がされていて、よく知っているドライバーほどアクセル全開で飛ばしていきます。問題はふたつ目の丁字路で、ここを赤になるタイミングで曲がった場合、3メートルほど先に横断歩道があり、そこがすでに青信号になっていることです。歩行者からは車が見えにくいため、通勤でよく通っていたころは、本当に毎日のように、歩行者とあわや人身事故、ということが起こっていました。しかもブラジルでは大きな車ほど威張っていて、青信号になった横断歩道を渡る歩行者の間を、車やバイクがクラクションを鳴らしながら突っ切っていく、ということも多いですね。
自動車学校の先生いわく、ほとんどのブラジル人ドライバーが知らない規則の筆頭は、大きな車ほど小さな車(弱者)の安全に対して責任がある、というものです。これは日本人ドライバーなら(たぶん)当たり前なのですが、信号のない横断歩道を歩行者が渡っていたら車の側が停止するとか、そういうことです。トラックのドライバーは乗用車に、乗用車のドライバーは二輪車の安全に配慮した運転を心がけなければなりません。しかしながらブラジルでは、いわゆる「ガゼルの群れの中でゾウはどこに座る?」のなぞなぞと同じで、大きな車は「好きな所に座る(好きなように走行する)」というのが現状。このため、交通事故の訴訟では、物損や治療費以外に、「倫理上の過失」という項目で慰謝料が加算されることが多いようです。
それから、横断歩道に乗り上げて駐停車させるのも違反。車庫等で横断歩道にスロープがつけられている場所の前に停車するのも違反です。これは、交通技術公社(CET)など交通監督機関が発見した場合は即罰金となります。逆に言えば、ある家を訪問してその車庫の前に家主の同意を得て駐車した場合でも、原則としては罰金が課されるということです。
私自身は、車を運転していてブラジル(サンパウロ)って不便だなぁ…と思うことのひとつは、標識の見づらさです。あらかじめ車線変更するだけの十分な距離がなく突然、二差路など
で行き先の標識が出てきます(そういえば東京
の首都高も、出口が右か左か直前まで分からない標識が多かったように思いますが、今は改善されているのでしょうか?)。もう天寿を全うされましたが、その昔、新聞社勤務時代にいつも私を取材先まで連れて行ってくれていたある一世の方は、この見づらい標識のために幹線道路などでもブレーキをかけたり、ひどいときは止まって強引に車線変更をしようとするため、いつも後ろから追突される事故を起こしていました。「何?バスで行くの?近くに行く予定があるから乗せていってあげるよ」と言われた時は、嬉しくも恐ろしく感じたものです。
日常的に車を運転していてもうひとつ気になることと言えば、治安問題でしょうか。夜間、薄暗い道で赤信号で停車するのはなかなか気持ちが悪いものです。そういった道では午後10 時を過ぎれば、安全を確認の上で信号を無視してもかまわないという説が広く認知されています。実はこれ、単なる都市伝説です。あまりにも誰もが口をそろえて言うので私自身もすっかり信じていましたが、法律の上では24 時間、赤信号の場合は絶対に交差点に侵入してはいけません。でも、強盗に襲われたら…と思うと怖いですよね。赤信号であえて交差点に侵入するかどうか迷うケースでは、なるべくゆっくり交差点まで向かいながら青に変わる時間を稼ぐというように、極力、赤信号で停車するのを避けるのが賢明です。そしてもし後ろの車が追い抜こうとする場合は譲りましょう。交差点で強盗の被害に遭う確率が最も高いのは、交差点の先頭に止まった車だからです。
運悪く違反で罰金が課されたら…。ほとんどの罰金は市単位で設定されており、一部が州単位です。このため、従来は他州や遠方への旅行などの出先で罰金が課されても無視すればいいとさえ言われていましたが、近頃は情報が共有されるようになってきており、そうとも言えません。最終的には、車両登録の更新時に未払いの罰金を清算する必要が生じます。ただし、こうした情報の共有ができていないために、車両登録更新時に罰金の清算が求められないケースが依然として存在するのも事実。このため、「(割引があっても)期限内に払うよりは、車両登録の更新で清算する」という人が少なからずいます。さながら、運試しといったところでしょうか。
ところで、市中で時に張り紙される「罰金を食らった?それならこちら―電話番号―に連絡を」という広告。連絡された方はいますか? 私は恐ろしくて(笑)連絡したことはありませんが、大々的に張り紙をしたりするところを見と罰金のもみ消しではなく、減点の代行ではないかと思うのですが…。ブラジルでは、他人が運転していたことを申し立てない限り、運転者ではなく車両の所有者に罰金(と運転免許の減点)が課されます。これは使用者側の申し立てになるのですが、逆に言えば、自分の罰金(と減点)を他人に肩代わりしてもらうことができる交通システムとも言えます。おおらか、あるいは便利と捉えるか、法律がきっちりしている割には運用がいい加減と捉えるかは、皆さんの心持ち次第です。


筆者 美代賢志 (みよ けんじ)
ニュース速報・データベース「B-side」運営。
HP : http://b-side.brasilforum.com


<クラッキ列伝>
ジェルソン
 

史上最強と未だに称賛の声が止まない1970 年メキシコ大会のブラジル代表。ペレを筆頭に王国が誇る天才たちがアステカの大地で見せた奇跡の数々は、未だに語り草だが、主演ペレのW 杯スリーを演出したのは当時の指揮官だったザガロではなく、ピッチ上の背番号8 だった。
ペレやジャイルジーニョ、トスタンら綺羅星のごとく並ぶクラッキたちにも全く遠慮することなく、彼のスタイルでもある言葉での指示を送り続けた男は「パパガイオ( お喋り)」の愛称を持つジェルソン。
リオデジャネイロのニテロイで生を受けた少年は、やはりプロサッカー選手だった父からサッカーの才能を受け継いでいたが、父にも備わっていなかった能力が、その左足を伝説たらしめた。
おしゃべりなカリオカが、ピッチ上でひときわ存在感を発揮したのは口ではなく、「カニョチーニャ・デ・オウロ( 黄金の左足)」だった。
メキシコW 杯のハイライトシーンでもあるペレやジャイルジーニョの胸トラップからのシュートを決める数秒前に、ジェルソンは必ず自らの左足を鋭く、そして華麗に振り抜いていた。
40 メートルのパスを必ず成功させるだけでも、至難の業ではあるが、ジェルソンに付きまとう評は「40 メートル離れた味方の胸にピタリとボールを送る」。
メキシコW 杯以降も天才ストライカーやドリブラーは絶えず輩出している王国にあって、ジェルソンと同レベルのランサドール( パッサー) は未だ現れていない。
ハーフタイムには必ず喫煙した型破りのクラッキは、現役引退後も数々の逸話を残している。2004 年に公開された「ペレ・エテルノ」の制作の際に、映像の使用を巡ってペレとひと悶着あった( 明らかにペレサイドの無礼なのだが) ことなどから、ジェルソンの姿は一秒も放映されず、胸トラップからシュートのシーンだけが銀幕に流されている。
辛口だが、核心を突くコメンテーターとしても知られるジェルソンは、映画を観終わって一言。
「ペレがフリーで受けたあのパス、いったい誰が送ったのか映画監督に聞きたいぜ。冗談じゃないよな」。
歴史上、王に背いた人間は正当な評価を受けずに、歴史の闇に沈むことが珍しくないが、ペレに公然と「ノー」を突き付けることが出来る左利きの天才パッサーの価値は、永遠に黄金の輝きを失わない。
メキシコ大会の足取りを映画に例えるなら、主演ペレ。脚本・演出ジェルソンなのだから。

筆者 下薗 昌記 (しもぞの まさき)
大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科を卒業後、全国紙記者を経て、2002 年にブラジルに「サッカー移住」。約4 年間で南米各国で400 を超える試合を取材し、全国紙やサッカー専門誌などに執筆する。現在は大阪を拠点にJリーグのブラジル人選手・監督を取材している。



<リベルタドーレス開幕>


南米各国のクラブがしのぎを削るコパ・リベルタドーレス( リベルタ杯) が開幕した。ブラジルを含めた見どころを探る。
07 年以降のリベルタ杯で、ブラジル勢は毎年決勝で涙をのみ続けているが、今大会はブラジル勢にとって4 年ぶりの優勝のチャンスだ。国内のサポーター数で上位3 位を占めるフラメンゴとコリンチャンス、サンパウロに加えて06 年の王者、インテルナシオナウ( インテル) と昨年準優勝のクルゼイロといった実力ある名門が揃い踏みする。
さらにブラジル勢の優勝13 回を大きく上回る22 回優勝のアルゼンチン勢は、13 年ぶりにボカ・ジュニオールとリーベル・プレートの二強がいずれも出場しないことも王国による王座奪回の追い風となる。
今大会、注目を集めそうなのがクラブ設立100 周年の節目に悲願の初優勝を目指すコリンチャンスだ。エースのロナウドに加えて、元ブラジル代表のロベルト・カルロスが1 月に加入。指揮官のマノ・メネーゼスは07 年にグレミオで準優勝を経験しているが、サポーターからの重圧に負けないベテラン勢を中心に補強を進め、過去に優勝経験を持つFW イアルレイやMF ダニーロらが加わった。負傷がちなロナウドのフル稼働に疑問符が付くばかりか、豪華補強の反面、昨年よりややチーム力は落ちている。特にリベルタ杯制覇に必須の守備力に関しては不安材料が残るのが気がかりだ。
ブラジル勢としては史上初となる7 年連続出場のサンパウロは、過去4 年間ブラジル勢に屈してきた。今夏で海外移籍が濃厚なMF エルナーニスら既存の戦力に加えて、コリンチャンスを上回る補強を敢行。元ブラジル代表のマルセリーニョやシシーニョ、アレックス・シウヴァら過去に一時代を築いた選手たちを獲得し戦力的には優勝の力はあるが、ゴメス監督が理想の布陣を確定するのに苦労しているのが気がかりか。
昨年の全国選手権王者、フラメンゴもブラジル代表のアドリアーノらを中心に既存の戦力を保つばかりか、元代表FW ヴァグネル・ラヴを獲得。前線の破壊力は大会屈指となるが、守備力にはやや不安が残る。また指揮官のアンドラーデも昨年の全国選手権こそ優勝したものの、リベルタ杯を獲得するにはやや力量不足なのも不安材料だ。
ブラジル勢で現状、やや抜け出るのは昨年、好サッカーを展開したインテルとクルゼイロだ。
インテルは元アルゼンチン代表のダレッサンドロが負傷で出遅れているものの要所にタレントが揃う。また昨年LDU( エクアドル) をコパ・スダメリカーナで優勝に導いたウルグアイ人監督のフォサッティが就任したもの心強い。
昨年決勝で涙を飲んだクルゼイロは指揮官、選手を含めてほぼチームを保っての再挑戦となる。組織だった守りと流暢なパスサッカーは南米屈指だが、面子が変わらない故に対策を立てられやすいという泣き所も抱えるのは事実ではある。


筆者 下薗 昌記 (しもぞの まさき)

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